KPI・KGIを必死に追いかけているあまり、ビジネスにおいて本来のゴールを見失ってしまう。多くの日本企業で見られるこの現象に、心当たりはありませんか?近年重視される「データ・ドリブン経営」。GAFA(ガーファ)を代表とする先進的な企業は、共通して巧みなデータ戦略を実施しています。データはあくまでも問題解決の手段。私たちに必要なのは、ビジネスにとって本当に有益なKPI・KGIを判断し、市場変化にも順応できるデータを集める力かもしれません。今回は、正しいデータ戦略のあり方と、データ分析の今後について、今回もエンジニアの廣部さん/西さんとともに、ディスカッションしました。
◇ 出演者 榊原直也 / 曽志崎寛人
◇ ゲスト 廣部祐樹さん / 西潤史郎さん
提供 : データ・サイエンティスト株式会社
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- 「コブラ効果」が示唆する、逆効果な問題解決策
- 優れた研究内容よりも優れた申請書を評価する日本社会
- KPIを活用しきれないプロジェクトの共通点
- 売上に直結するKPIを生み出す、客観的な分析データ
- チーム全体で行うデータサイエンスの理想形とは
- GAFAの先進的データ戦略に対抗する、独自のデータドリブン経営
- 人を幸せにしない、間違ったデータ活用の危険性
- 生理学的データを計測する、新しいデータビジネスの可能性とは
- 目的とデータの関係性を分析するための、3つのポイント
- データを使いこなす自分の包丁を持て!
「コブラ効果」が示唆する、逆効果な問題解決策
廣部:みなさんは「コブラ効果」をご存知ですか?イギリスの経済学者、チャールズ・グッドハートが唱えた説です。
昔のインドでコブラが増えすぎた時に政府が、コブラを捕まえて殺した数だけ報奨金を出すという制度を出した。もちろん、すぐに政府に多くのコブラが集まってきました。しかし、裏では捕獲業者がコブラの養殖をしてたんです。
(一同、笑)
廣部:この話には続きがあります。政府は事態に気づき、制度を廃止します。そうすると養殖業者は、不要になったコブラを野に放ち、結果として政策の施行前よりもコブラが増えてしまったんです。
これは「グットハートの法則」と言われ、指標自体を目的にする危険性を示しています。
この逸話は、設定した目的に対して正しくデータを扱うことこそが、 正攻法だと示唆しています。
優れた研究内容よりも優れた申請書を評価する日本社会
榊原:政策を打ち出したときに、人々がどう反応し、どんな裏技を見つけ出すか、集団心理も考慮した上で、データ戦略は考えるべきだということですね。そうすると、データを分析する方たちは、社会心理もしっかり学んでから、職につかないといけない。
西:そうですね。
大学で研究をするためには、国や組織からの助成金が必要です。研究したい内容を記載した申請書を、国や組織に提出し、認められると研究費を使えるようになります。
しかし現在、助成金を得るために重視されているのは、研究自体の素晴らしさではなく、申請書を的確に書けているかなんです。そして、申請書の書き方を指導してくれる業者も存在します。
本来、申請書の良し悪しが研究の本質であってはなりません。研究の本質は社会の役に立つ良い研究ができているかであるべきなのに、申請書の書き方を指導する業者がいるということは、体裁の方が重視されているということではないでしょうか。
KPIを活用しきれないプロジェクトの共通点
廣部:今回出版した本は、データ分析をもっと学習したい方と、データ分析を学んでもらいたいエンジニアの方に向けて書いています。特にエンジニアの方は、何のためにデータ分析し、実際にデータをどう活用するのかが分からない場合があります。
KGI(Key Goal Indicator)というゴールがあってのKPI(Key Performance Indicator)なのに、それを履き違えてしまっているのです。
西:KPIはただの指標であって、数値を上げることを目的とすべきではありません。また、KPIの動きの裏には何かあると常に考えていないと、誤った判断をしたり、潜在的なリスクを見過ごしてしまう可能性があります。
榊原:確かにそうですね。プロジェクトチーム内で、指標に対して思っていることが違ったり、指標の裏側にあるものを見抜けなかったりすることがあります。
プロジェクトを始めるときに、KGI・KPIの個々の背景について、担当者同士でレビューしあい、「このファクターは、こういう背景で歪められることもあり得るよね」と、共通認識のすり合わせをすることが大事です。
売上に直結するKPIを生み出す、客観的な分析データ
廣部:KPIの選定の際は、選んだ指標が本当にゴールに近づくためのものなのかを、データなどで確かめることが大事です。
私は以前、経営企画を担当していたことがあります。経営企画の目標は、売上アップや赤字の解消など、さまざまです。しかし目標達成のためには必ず、コストを下げて売上を上げなくてはなりません。
自分たちのビジネスでは、何をすれば一番効果があるのか。確実に売り上げにつながるKPIを設定できれば、目標に対して現場の士気も上がり、成果にも繋がる。
そのため、KPIの設定や最終的なゴールが、プロジェクト全体で理解されていることは、企業や組織の成果を生む上で、とても大切なところではないでしょうか。
AIでは決められない複雑な、KPIの選定。データ分析の重要な仕事の一つは、そのときの判断材料として、客観的なデータを作ることだと考えています。
チーム全体で行うデータサイエンスの理想形とは
廣部:ビジネスにおいて、KPIの設定は重要な課題です。目標がどこにあるかをチームの共通認識として、エンジニアもデータ分析担当者も、お互いに相手の領域に踏み込んで、理解していかないと価値あるKPIを設定するのは難しい。チーム全体でデータ分析、データサイエンスができることが理想です。
榊原:ディスカッションする機会を社内に持つことは重要です。KGIとKPIのレビューの指標を取り出し、全員で協議し、そのファクターが持っている有用性とリスクや間違えについて、全員が認識を揃えた上で運用していく。
多くの場合、社内ディスカッションのプロセスを省いて、いきなりKPI選定に入ったり、運用に入ってしまうから、のちに問題になりやすいのです。
廣部:KPIありきになっているのでしょうね。
榊原:我々は、一度ターゲットが決まると、それに向けて遮二無二追いかけてしまう性質がある。ターゲットを追いかける意味やリスクを、事前に知っておくことは、メリットだと思います。
GAFAの先進的データ戦略に対抗する、独自のデータドリブン経営
曽志崎:廣部さんにお聞きしたいのですが、実際に、エンジニアとデータ分析担当者の相互理解によって、成功している事例はありますか?
廣部:そうですね。良い事例として株式会社リブセンスの取り組みが挙げられます。
こちらでは、SQLを社内の誰もが書け、データを分析できるようにするために、エンジニア向けの勉強会を開いています。そのため、エンジニアとデータ分析担当者の意思疎通がスムーズです。
今は先進的な企業だけですが、このような取り組みは今後も増えていくでしょう。
昨今、Google・Amazon・Facebookのようなテック系企業が急成長し、他の業界を駆逐しています。徹底的にデータの活用をしている先進的な企業に対して、既存の業界でもウォルマート(Walmart)のように、独自のデータを活用することで対抗している企業もある。ウォルマートは、データ活用の他に、自分たちの強みを生かした戦略もしています。
自分たちがオリジナルで持っているデータなどを的確に活用し、人員配置を考えたり、売上をあげたりする企業は増加しています。データを活用ができるかどうかに、多くの企業の未来がかかっているのではないでしょうか。
「データドリブンの経営」という言葉があり、データに基づいて経営がをするのがトレンドになっています。しかし、実際はとても難しいんです。
経営者やマネージャーが、現場のデータを活用し、利益を生むサイクルを作り上げる。そして、その作り上げたサイクルを、断固と実行する。大半の企業では、まだできていないようですね。
人を幸せにしない、間違ったデータ活用の危険性
曽志崎:データ活用の分野で、最近話題になったニュースがありました。採用活動において、企業が内定を出した学生の入社の可能性を、マッチングサイト運営会社が企業に販売していたというニュースです。この話題は、学生たちに不信感を与え、会社の倫理観が問題になりました。
西さんの本には「データがウェポンになる」とあります。この問題をどうご覧になっていますか?
西:まず、私たちは何のために事業をしているのでしょうか。それは社会史貢献のためです。ビジネスがサービスを提供するのは、社会の問題を解決したいから。自宅に居ながらにして、おいしいものが食べたいという課題に対して、新たなビジネスが生まれる。
最終的にサービスを消費するのは人です。人が幸せになることを目的としているビジネスが伸びるのです。
先ほどの採用活動のニュースの事例では、最終的に幸せにしたいのはエンドユーザーなのかもしれない。しかし、同時に人々に「この会社に入りたい」と思わせられる企業であることも目標にしていないと、データ活用自体が明後日の方向に行ってしまい、関わる様々な人たちの不信感につながります。
データ分析は、プロセスであり目的ではありません。また、社会貢献につながらない分析は、いくら頑張っても意味がない。何のためのデータ分析なのかを常に意識し、成果を生み出すチャンスをつかまなくてはならないのです。
曽志崎:データ活用が明後日の方向に突き進むと、一時的な成果は出るかもしれないけど、自分に矛先が帰ってくる、そんな危険性も孕んでいますね。
生理学的データを計測する、新しいデータビジネスの可能性とは
榊原:僕は、我々はデータの計測可能性を突破できないのではないかと考えています。
レストランを例にしてご説明しましょう。ある目的のために、レストランの各部署で起きている事象を計測したとします。従業員の動き方や調理の様子、肉を何度で何分焼いてるかなどの内部データです。
ところが本当にレストランが目的を果たしのかを確認するには、レストランを利用した人のデータも必要です。満足度が高いのはどの席に座った人か、笑顔やホルモンや血圧など多岐に渡ります。しかし、利用者のデータは取りにくい。
「データの計測可能性を突破できない」とは、最終エンドのデータを計測できなければ、内部データとの関係を分析でないため、目的を果たせたのか確認できないということです。
その時、すでに多くの内部データを持つ企業は、最終エンドのデータを知りたくなるはず。今後、お客さんの身に何が起きているのかを計測するビジネスが出てくるかもしれません。
しかし、このビジネスは計測可能性が低いため、事業として成立するのは難しい。お客さんに「計測させてください」とは言えませんからね。だからこそ、多くのテスターを起用して、お客さんの生理学的データを計測するビジネスは出てくるかもしれません。
目的とデータの関係性を分析するための、3つのポイント
廣部:最終的に何を計測するべきかは、目的によって異なります。飲食店では、回転率が高いことを正しいこととするのか、満足度が高いことを正しいこととするのか、経営の仕方によって異なる。経営者は、その計測は自分たちの目的達成のための指標になりうるのかという判断をしなければなりません。
データとして相関が取れたとしても、裏では正しい相関がないことが多々あリます。その原因は、概ね3つに分けられます。
・第3の要因による相関関係
例えば、夜に明かりをつけたまま寝る家庭の子供ほど、視力が低いという統計データがあります。実はこのデータには、両親の目が悪く、暗いと危ないので明るくして寝る家庭も含まれます。つまり、明るいまま寝ることと、子供の視力低下に相関関係はなく、両親からの遺伝で視力が低下していることが考えられます。
一見、相関関係が成立している事例でも、実は裏にある第三の要因によって相関関係が作られている可能性があるということです。
・偶然による相関関係
こちらは「無限の猿の定理」といわれる定理でご説明します。猿にタイピングをさせ、ランダムに文字列を作らせる。この作業を数億万年ほど続け、タイピングさせたものを切り取ると、間にシェイクスピアの文章があるという定理です。
今、たまたま見たデータでは相関関係があるけれど、ただの偶然かもしれないというリスクもあるということです。
・因果関係の順序が逆になっている場合
統計データを見ると、犯罪発生率が高い地域ほど交番の数が多い。逆にこのデータを、「交番が増えると犯罪発生率が高くなる」と捉えてしまうと、その後の対応は全く違ったものになります。因果関係の順序が間違っていないのかは、よく考える必要があるんです。
データを使いこなす自分の包丁を持て!
榊原:近年、データ分析の会社が増え、データ分析自体がコモディティ化しつつあります。そのため、これからのデータ分析専門家は自分を売り込むための強みが必要です。
データ分析会社側の特性が顕在化すると、事業会社も「この分野の分析はあの会社が最強だから、あそこに頼もう」と選びやすくなります。
西:私の大学の教授が「自分の包丁を持て」とおっしゃっていました。自分の包丁は自分の専門性を表しています。
フードプロセッサーでも料理は作れるが、それではダメ。自分の包丁を使って、基礎となる技術を習得し使いこなすことで、いろいろなサービスを作れるようにしなさいという教えなんです。
榊原:その包丁の一本づつが仕上がって、増えていくと面白いですね。組み合わせたら最強になります。
今、データ分析の世界では、画像がすごく発展していますね。一方、言葉の分析は難しい。画像の分析と言葉の分析を組み合わせた分野には、とてつもない領域があると考えています。
西:そうですね。特にディープラーニングのようなAI技術で一番ホットなのは、まさに言語処理の分野です。
榊原:さらに、映像と言語の分析に3次元で組み合せられるのは、人がどう感じているかという感受のデータでしょう。この三つ巴のデータが何十年と蓄積してくると、さまざまなことが分かってくる。「人こう感じる時は、こういう言葉とこういう映像が組み合わさった時が多いよね」とリバース的に考えられるようになってくるのではないでしょうか。
この領域は、まだ産まれたばかり。ここ数年で集まりだしたデータが多ので、まさにこれからですよね。
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