2019.06.28

「アイランドメンタリティ」と「インターナショナル」の両側面

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世の中の興味深いマーケティング事例や大きな数字、意外な事実など、経営者 榊原直也 のアンテナに留まったビジネス話題をご紹介する『ばらさんのBusiness Talk | バラトーク』。

今回のテーマは、ヨーロッパからアジアまで、注目されている様々な都市の、一歩踏み込んだ視点からの考察です。今回も大前さんが知る、それぞれの都市に住まう人々の帰属意識の比較や、今でも残る大英帝国時代の結びつきなど、外から知りにくい情報満載でお送りします。

前回に引き続き、大前さん・曽志崎さんと、三人でお届けします。

 

◇ 出演者 榊原直也 / 曽志崎寛人

◇ ゲスト 大前和徳さん

提供 : データ・サイエンティスト株式会社 
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  • 仮面ライダーで見る、東京の空中活用率
  • 空中をフル活用する香港と、富士山の見える東京
  • 外からは見えない、ドイツ各都市のアイデンティティ
  • 自分を「ドイツ人だ」と思わないドイツ人の、歴史的事情
  • イタリアには存在しない「イタリアンレストラン」
  • 「More European than German」に込められた、ドイツ人の思い
  • オランダ語の「ありがとう」でわかる地域融合の歴史
  • アメリカとヨーロッパの間に潜む、多様性の違い
  • ロンドンが海外留学生数・世界一を誇る理由
  • ブリティッシュコモンウェルス各国の、意外な結びつき
  • 日本とイギリスに共通するアイランドメンタリティ
  • イギリスの国民性と豊富なボキャブラリーが生む、マーケッターに最適な能力
  • ヨーロッパ人が持つ、イギリスに対する複雑な感情の正体

 

仮面ライダーで見る、東京の空中活用率

榊原:1970年ごろに撮影された、ブルース・リーの「燃えよドラゴン」はご存知ですか。香港の港町や市街地の風景が出てきますが、大きなビルもなく、今と比べると信じられないくらいのどかです。

また、東京近郊での撮影されたと思われる初期の仮面ライダーにも、実にのどかな東京の様子が伺えます。東京はこの数十年でも、どれほど様変わりしたかが、よくわかります。

曽志崎:都市を見るという視点で仮面ライダーを見るわけですね。

榊原:そこで気がついたのですが、東京は空中の活用率が、他の都市に比べて低いと言われてます。例えばミラノやパリなどヨーロッパの都市。築年数が数百年を越す、8~10階建の石作りの建物が、隣のビルと隙間なく、ぎっしりと建っている。あの風景は東京にはないですよね。

大前:言われてみれば、東京は一見いくつか飛び出している高層の建物があるので、摩天楼化しているように思われますが、平均階高で言うと違ってきますね。

榊原:そうなんです。各都市の一区画を切り取り、そこに存在している建物の平均階高を計算すると、ヨーロッパの有名な都市に比べて、東京は1/2~1/3以下しか階高がありません。

大前:そうなんですか。

 

空中をフル活用する香港と、富士山の見える東京

榊原:東京の空中にはまだ潜在価値が眠っています。我々は今、三軒茶屋で収録をしていますが、ここからの風景を見ても東京は階高が低いと感じます。

三軒茶屋は渋谷から約5キロ、駅にして2駅の場所ですが、平屋や2階建の建物も多く、比較的のどかです。

大前:そうですね。建物の隙間からなら東京タワーが見えるし、場所によっては富士山も見える。

曽志崎:駅のターミナル界隈でばかり生活していると、東京は低層の建物が多いというイメージはないですね。

榊原:東京は、意外と低い。

空中の持つ潜在的な経済的価値を計算すると、世界にはまだまだ面白い都市があるのではないかと思います。

大前:先日行った香港では、ビルが霜柱のように林立していました。

僕の友人は、パッピーバレーという小高い丘の上に建つ富裕層向けのマンションに住んでいます。彼はそのマンションの40階に住んでいるそうです。

富裕層向けの高台の建物と言ったら、低層の建物がイメージされますが、香港は高台に40階以上の建物を建てているんです。香港の空中使用率はすごいですね。

 

外からは見えない、ドイツ各都市のアイデンティティ

榊原:大前さんにお聞きしたいのですが、ドイツなどヨーロッパ各都市の街並みには、違いはありますか?

大前:あります。僕はベルリンやミュンヘンなど、ドイツのいくつかの都市へ行き、現地の人々に話を聞き、一般的に言われているドイツという一つの国はないと感じました。

曽志崎:一般的に言われているドイツとは、どのようなものですか。

大前:一般的なドイツのイメージは、謹厳実直で、日本人にも似た質実剛健な気質の人々。偉大な作曲家が生み出され、製造業が盛んな国というようなものではないでしょうか。

しかし歴史的には、ドイツが統一されるのは、たかだか19世紀のことです。19世紀以前は、プロイセンやバイエルンなど、小さな国が多数存在していました。そのため現在でも、都市ごとにアイデンティティも宗教も、全然違います。

またドイツは、宗教改革の際にマルティン・ルターが、それまでのカソリックを改め、プロテスタントのキリスト教が生まれたエリアというイメージがあります。しかし、あれはベルリンや北ドイツの話です。

このようなドイツの文化圏の違いにおいて、ライン川が重要な分岐点になっています。

川を挟んで南側は旧ローマ帝国文化圏エリア、西側はゲルマン人のいた野蛮な森の民のエリアです。ライン川の南側に位置するミュンヘンなどは、ローマの文化の影響があります。カソリック地域で、建物はどこかローマチックでデコラティブに作られています。

榊原:日本からは見えない風景ですね。

 

自分を「ドイツ人だ」と思わないドイツ人の、歴史的事情

大前:多くのドイツの方は、「自分はドイツ人だ」とは、あまり考えたことがないようです。その原因は歴史にありました。

ひとつめは、統一ドイツとしての歴史の浅さ。「自分はミュンヘンの人間だ」とか、「ハンブルクだ」と、地元への帰属意識は持っています。しかし、統一したのは19世紀と歴史的には最近のため、統一ドイツという意識は持ちにくいようです。

ふたつめは、やはりナチスドイツの第三帝国への反省があるようです。ドイツ人として冒してしまった黒歴史があるので、統一ドイツを名乗る際に、躊躇やためらいがあったようです。

榊原:なるほど。

大前:2006年のW杯ドイツ大会の時に初めて、国に一体感ができたんです。ドイツ人はみんなで、ドイツチームを応援をしていましたね。

榊原:日本では、感じにくい感情ですね。私はよく関西人だと言われますけど、関西人の前に、まず日本人だと思ってます。

日本では、国の代表が活躍してる姿を見て、初めて日本人であることを意識する人は多くないと思います。

大前:そうですね。ドイツでは、日本人が外から見ただけでは見えない部分が多くあることを実感しました。

 

イタリアには存在しない「イタリアンレストラン」

大前:イタリアでもドイツと同様に、土地ごとの強い帰属意識を感じました。

イタリアは、ジェノバ・ベネチア・フィレンツェ・ローマ・ナポリ、各々の都市が小さい国の集まりですから、さらに細かい。

ローマ帝国が滅んだ頃の小さい国のそれぞれに、土地ごとのアイデンティティがあります。だから、イタリアの方に「イタリアンレストランはない」と、言われましたよ。

榊原:お好み焼きを日本料理だと言われた時の、微妙な感覚と似ていますか。

大前:そうですね。確かにお好み焼きは日本料理ですが、外国の日本料理店で、お寿司と並んでお好み焼きや、すき焼きしゃぶしゃぶが出てくる…。日本人の僕らは微妙だなと思う。

日本のイタリアンレストランは、きっとイタリア人に微妙な感情を抱かせてるでしょう。

榊原:ナポリの料理もローマの料理も、我々にとってはイタリアンですからね。

大前:イタリアの方も、イタリア人であるという統一感が、あまりありません。都市間でライバル意識もあり、彼らも「イタリアが統一されたのはいついつだしね」という話になります。

榊原:歴史的に見れば、割と最近のことってことですね。

大前:そうです。

 

「More European than German」に込められた、ドイツ人の思い

曽志崎:ドイツには、多くのサッカークラブがありますよね。国内のクラブチーム同士の試合でも、国際試合をしている感覚なのでしょうか。

大前:きっと、そうですよ。

曽志崎:とても不思議ですね。

ヨーロッパ全体で見ると、ヨーロッパの人々はEUという枠組みで一体化しようとしている。土地ごとの違いを大切にするアイデンティティと、一体になろうという力学が、同時に存在しています。

大前:そうです。ドイツの方たちは「More European than German」と言ってました。

ドイツの方はドイツ人であろうとするより前に、ヨーロッパの一員であろうとする思いを持とうとしています。それは、ドイツがEUの一員であるという生き方を、政策的に選んだため、国民のみんなが意図的に、EUの一員だと思うようになったのかもしれません。

他のEU諸国の事情はわかりませんが、ドイツはEUの一員であるという意識を、強くもってる人が多い印象を受けます。

榊原:なるほど。

 

オランダ語の「ありがとう」でわかる地域融合の歴史

榊原:1600年ほど前、古代英語と古代ドイツ語は同一言語でした。歴史的にイギリスと関係が深かった、ライン川から見てドーバー海峡寄りのエリアにおいて、イギリスらしさとゲルマンらしさに、同質性は見られますか。

大前:北ドイツの海側のエリアは、オランダやデンマークに近いため、そちら側と人種的に非常に似ています。北方民族の常で、やはりドイツも海の北の方に行くと、体が大きい人が多い。オランダ人やデンマーク人も体が大きい人たちが多いことで有名ですよね。

面白いのは言語です。ドイツ語でサンキューは「ダンケシェン」ですが、オランダ語は「ダンキュー」というんです。

榊原:サンキューとダンケシェンが融合したようですね。

 

アメリカとヨーロッパの間に潜む、多様性の違い

榊原:先ほどイギリスのお話が出ましたが、ロンドンは相変わらずわらず、国際線の直行便の接続数が世界No. 1だそうです。

大前:イギリスのコネクションの強さですよね。

榊原:国際線の旅客数も世界一です。ロンドンは一時期、金融セクターで非常に重要な街でした。ロンドンは、これからどうなって行くのでしょう。

大前:ロンドンのこれからを予想するのは、ブリグジットの見通しが全く見えてないため、不確実性がとても高いと思っています。しかし、一つ言えることは、ロンドンはすでに、真の国際都市であるということです。

僕が初めて行った外国は、アメリカでした。世界の中心で人種のるつぼと言われているニューヨークを、そのとき初めて見ました。その後ロンドンに行き、「ロンドンはインターナショナルという言葉の意味が、アメリカとは違うな」と思いました。

柏原:どのように違いましたか。

大前:アメリカは人種のるつぼと言いながら、建前的にみんな多様性を認めようという雰囲気。一方ロンドンでは、建前も本音もなく、自然と多様性が存在している。

 

ロンドンが海外留学生数・世界一を誇る理由

榊原:ロンドンは海外からの留学生の数が、今でも世界一らしいです。ヨーロッパには多くの国がありますから、アメリカよりも、ロンドンに留学しようとするということでしょうか。

大前さんは、ロンドンに留学されてたんですか?

大前:僕は、マンチェスター近くの大学の街に留学していました。そこは日本人を見たらジャッキーチェンのモノマネを仕返してくるような街で、初めてアジア人見た地元の子供もいるような田舎です。

その街とロンドンは、違います。本当に国際的です。

アメリカの留学生は、南米からが多い。それに対してロンドンの留学生は、本当に様々な地域から来てます。パキスタンやインドの方の人もいれば、アフリカや東ヨーロッパの人もたくさんいる。歴史的にイギリスと縁が深い、中東からの留学生も多い。

それは、旧植民地の総指国であったブリティッシュエンパイヤーの流れが、今でも根強く残っていることも理由の一つかもしれません。

 

ブリティッシュコモンウェルス各国の、意外な結びつき

大前:現代において、総指国と旧植民地に結びつきはないと思われがちですが、ブリティッシュコモンウェルスといって、旧大英帝国の国々は一体感を持って活動しています。例えば、ブリティッシュコモンウェルスのスポーツ大会があります。旧大英帝国連邦の方にとって、オリンピックに準ずるような国際スポーツベントです。

曽志崎:今でも開催されているんですか。

大前:もちろん、現在でも開催されています。クリケットや陸上、何から何までありますよ。

曽志崎:アスリートは忙しいですね。

大前:本当にそうです。しかし、それだけ熱狂する人がいるから続いているということでしょう。今でも統治するものとされるものとの関係を超えた、一体感のような結びつきがあります。

ブリティッシュコモンウェルスの国々は、車が左側走行であるとか、法律体系が似ているなど共通しているところが多くあります。

そのため、イギリスのロースクールに入って弁護士資格取ると、ブリティッシュコモンウェルスの他の国でも、弁護士にもなれる場合があります。一つの資格がブリティッシュコモンウェルスの多くの国で使えるとなれば、イギリスに多くの留学生が集まってきやすくなりますよね。そのためロンドンが、極めて国際的になっているのでしょう。

日本から見るとイギリスは極東ですが、世界の人たちから見たら、やはりロンドンは中心的な場所なのかもしれないですね。

 

日本とイギリスに共通するアイランドメンタリティ

榊原:ヨーロッパの島国イギリスと、アジアの島国の一つ日本。イギリスと日本に、共通点はありますか。

大前:僕はイギリスのビジネススクールに留学中、イギリス人のクラスメイトに出身地を聞かれ「日本だよ」と答えたら、「同じアイランドメンタリティだね」と返されたことがあります。

榊原:アイランドメンタリティですか。

大前:僕は、その返し方に驚きました。

榊原:日本語に訳すと、どう言う言葉になりますか?

大前:悪く言えば島国根性でしょうか。クラスメイトは、僕を喜ばせようと思って言ってくれた感じがしたので、良い意味だろうなと思っています。

 

イギリスの国民性と豊富なボキャブラリーが生む、マーケッターに最適な能力

榊原:イギリスの方のアイランドイメージとは、どういうものですか。

大前:イギリスでの留学中、イギリスの国民性を語る授業があり、みんなで議論したことがあります。その中で、イギリスの方が「イギリス人は皮肉屋だ」と語っていました。

榊原:以前、大前さんは「あなたがヨーロッパ人を集めて組織を作るとしたら、どの国籍の人に、どの仕事を割り当てますか」という質問を、ベルリンの方にしたお話をされていましたね(xx参照)。その際の答えは、イギリス人はマーケターに最適だということでした。

イギリス人はどうして、マーケターに向いているのでしょう。

大前:ドイツのフィンテックベンチャーの、人事部長の方にした質問でした。人事部長さんは、「イギリス人はヨーロッパで最もユーモアのセンスがある」と言っていました。

確かにイギリス人は、先ほどのアイランドメンタリティの話でもわかるとおり、小洒落たクスッと笑えるような英語表現を、短い単語で選ぶ能力が高い。しかも、アメリカ人よりボキャブラリーが豊富です。

榊原:なるほど。長い時間の蓄積が、抽象度の高い概念を、短い言葉で表現する能力につながっているのかもしれませんね。

大前:アメリカ人はもっとストレートでシンプルで、多様な解釈を必要としない、回りくどくない英語表現を好みます。それに対してイギリス人は、おしゃれで、ひねりの効いた表現を好む。

そのため、何かのキャッチコピーを考える際などに、イギリス人は良いコピーライターになるのではないでしょうか。そういう意味で、人事部長さんはマーケターに最適と言ったのだと思います。

 

ヨーロッパ人が持つ、イギリスに対する複雑な感情の正体

大前:僕の友人で、イギリスで弁護士をしているギリシャ人がいます。イギリスのロースクールを卒業し、英国の弁護士資格持っています。イギリスのトップローファームに勤めていた彼はいつも、イギリス人の弁護士パートナーのことを「イギリス人なんて、英語が母国語だというだけで高い報酬をとっている」と冗談半分に怒っていました。

ヨーロッパ大陸の人たちはイギリス人に対して、複雑な感情をもているようです。

榊原:イギリスには優秀な方々が多くいるのに、そういう風に思ってらっしゃる方もいるんですね。

大前:そうです。ITの世界など様々な分野で、多くの発明家を排出しています。ニュートンやホーキング博士、世界的な有名人も本当に多い。

ヨーロッパ大陸の多くの人たちが持つイギリスに対する複雑な感情は、イギリスの素晴らしいところは認めつつも、「なんだかんだ英語を使わなちゃならないから、英語の言葉を巧みに操る能力はイギリス人にはかなわないよな」ということだと思います。

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この番組のパーソナリティ

榊原直也

榊原直也

データ・サイエンティスト株式会社 代表取締役社長

Webメディアと検索順位との関係を数学的に解き明かす技術で複数の特許を持つ。その技術を駆使したサイト診断サービスは、その効果が口コミで広がり、いまや著名企業が何ヶ月も待つほどの人気サービスに。プライベートでは、難しい分野でもわかりやすく楽しい雑談ネタにしてしまう「バラトーク」が、学生、主婦、ビジネスマン、経営者など幅広い層に大人気。モットーは「楽しく!わかりやすく!」。

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