世の中の興味深いマーケティング事例や大きな数字、意外な事実など、経営者 榊原直也 のアンテナに留まったビジネス話題をご紹介する『ばらさんのBusiness Talk | バラトーク』。
日本ではキャッシュレスと聞くと、決済のみに関心が集まりがちですが、中国におけるキャッシュレスは様相が違うようです。同じキャッシュレスでも、仕様の差が生まれることにはどんな背景があるのでしょうか?仕様というルールを決める行為の影響力とそのジレンマについてのお話です。
◇ 出演者 榊原直也 / 曽志崎寛人
提供 : データ・サイエンティスト株式会社
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- 日本で遅れているキャッシュレス化は、決済だけのイメージ?
- 行列まで解消。中国に浸透するQRコードの対応力
- キャッシュレス化を阻むQRコードの「仕様」問題
- 目先の利益追求が、日本の社会コストを増大させる
- 国際競争力を上げる仕様統一 VS 国内産業を守る個別仕様
日本で遅れているキャッシュレス化は、決済だけのイメージ?
榊原:日本ではキャッシュレス化がなかなか進みませんよね。
曽志﨑:ゴールデンウィークに、群馬県の中之条町の北部にある四万温泉で町歩きしたんです。キャッシュレスどころかクレジットカードも使えず、道の駅で買い物ができなかったりして、ちょっと残念な思いになりました。やっぱり現金は多少持っていなきゃと個人的に反省しました。
榊原:日本におけるキャッシュレスサービスのイメージって、決済の瞬間だけをイメージしがちだと思うんです。レジの時にピッとやって、現金出すより楽みたいな。ところがキャッシュレス社会の中国なんかだと、レジの瞬間だけではなくて、予約の段階から既に始まっているのがキャッシュレスサービスなんです。
行列まで解消。中国に浸透するQRコードの対応力
榊原:たとえば中国でWebサイトでお店を予約する場合、予約されたIDがQRコードになっています。行列に並んでいる時にもQRコードがあって、QRコードを読み込みさえすれば、列から離れて、順番が来そうな時にはスマホに通知される。
入店後には、今度は座席にQRコードが貼られていて、QRコードをピッと読むと、さっき待ってたあの人がこの席に座ったんだということがわかります。しかも行列に並んでいる時から、メニューを選ぶこともできるので、顧客がどのメニューを注文し、どの席に座ったのかということが紐づくわけです。
曽志﨑:すごい。
榊原:そして、店員さんが食事を運ぶ際も、新たなQRコードのついたレシートをペロッと持って来て、会計時にはそのQRコードをまたピロッと読み込む。行列に並んでる時に読み込んだQRコード、着席した席に付いていたQRコード、レジから持って来られたQRコード、全部が結びついているんですよね。
つまり中国では、予約、順番待ち、座席、注文、決済が全部一体となって結びついたサービス全体をもって、キャッシュレス化というイメージなんですよ。日本では、支払い部分のみにフォーカスしがちですが、店舗マネジメントも含めた、接客サービスのワークフローすべてを取り込んだ概念として捉え直す必要があると思いますね。
キャッシュレス化を阻むQRコードの「仕様」問題
曽志﨑:最後の決済ばかりにフォーカスしてしまうことが、日本のキャッシュレス化を進めるボトルネックになっているとしたら、いったい何が原因なんでしょう?
榊原:意外と、日本におけるQRコードの仕様に問題があるんじゃないかという可能性もあるんです。日本では決済専用のQRコードのルールがあるようなんですね。
中国などで採用されているQRコードっていうのは、汎用的なQRコードで、WebのURLとQRコードが結びついているだけなんです。QRコードを読み込むことは、Webサイト上で行う行動と完全に一致してるわけなんです。
Webページで予約・注文をする、購入して支払いをするなど、Webでやれることがほとんど全てQRコードで行えるのは、QRコードがURLを指定しているからなんですね。これがいわゆる汎用的QRコードです。
曽志﨑:なるほど。
榊原:ところが、日本における決済用のQRコードっていうのは、Webページと一致しているわけではないので、決済の時にしか使えない仕様になっているんです。
決済の時にしか使えないQRコードがいいのか、応答速度では少し劣っても、URLと一体化してWebでやれることが全てオペレーションできる汎用的なQRコードの方がいいのか? 社会全体としてどっちの方が有益なのかってことです。おそらく両方が用いられることによって、最後はどちらかが勝ち残るのかもしれません。
曽志﨑:僕には、決済用のQRと汎用的なQR、両方見せられても、同じようにしか見えないですけど(笑)。QRの仕様一つで、こうもオペレーションフローの範囲が違うとなると、ルールって奥が深いなと思います。
目先の利益追求が、日本の社会コストを増大させる
榊原:仕様を決めるというのは社会的にすごく影響大きいですよね。だいぶ前ですけど、国鉄が分割民営化された時に、数年経ってSuicaとかICOCAとか、いろんな鉄道系のカードが出たでしょ。あれも最初は鉄道会社ごとにバラバラで、JR西日本とJR東日本では同じカードが使えなかった。やっと両方使えるようになるまでさらに数年かかるなど、そういうことっていっぱいあるんです。
曽志﨑:ありますよね。
榊原:たとえば、行政なんかで使われる投票システムは、他の都道府県や市区町村でも同じシステムが使えるはずですよね。その方がコストも安く済むし。
ところが、市区町村ごとにベンダーさんに発注かけたり、特殊な仕様でゼロからお願いするもんだから、それぞれ個別でいろんなものができてしまってる。ベンダーさんからするとその方が儲かるわけです。
ヘタしたら無料ツールぐらいの安いものに、数百万、数千万の開発費用を払ってしまうみたいな、結果として行政側からするとコストが全然高くついている。
国際競争力を上げる仕様統一 VS 国内産業を守る個別仕様
曽志﨑: 市区町村ごとにベンダーさんは潤うけれども、日本という国全体で、同じシステムをルールとして仕様を決めてあげれば、ベンダーさんの働く時間が個別でやるよりも削減されて、別のことに時間が使えますよね。
榊原:おそらく国側が気にするのは、あまりそこに介入し過ぎると、産業の自由度が失われるということがあるかと思うんです。一方、企業側からしても、個別対応しておいた方が、短期的には一個の案件で大きな見積もりを出すことができる。
統制経済的に「このテーマは個別にやらずに、国全体でこういう仕様にしとこうよ」みたいに介入するタイミングって難しいと思うんです。難しいけれども、これはやるべきと判断した時にやらないと、10年20年レベルで競争力が奪われかねないわけです。
中国なんかは共産党一党支配ですから、やろうと思えばやれるでしょうけど。他の国でそういったことを思い切ってやろうとすると、経済界から強烈な反発に合いますしね。
実際にあまり国がそういったことに介入し過ぎると、競争力や産業の自由度が奪われるということも事実なので、ジレンマですよね。的確にやるっていうのがいかに難しいか。逆に言うと、的確にやる能力がどこかの組織にありさえすれば、仕様の統一というテーマは是非やるべきことなんでしょうが。
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