世の中の興味深いマーケティング事例や大きな数字、意外な事実など、経営者 榊原直也 のアンテナに留まったビジネス話題をご紹介する『ばらさんのBusiness Talk | バラトーク』。
今回のテーマは、世界の都市を通して見た日本の都市のあり方です。東京や地方都市は、これからどこに向かうのか。世界の驚くような都市事情を楽しみながら、これからの日本の都市のあり方まで考えます。
今回も前回に引き続き、大前さんと一緒にお届けいたします。
◇ 出演者 榊原直也 / 曽志崎寛人
◇ ゲスト 大前和徳さん
提供 : データ・サイエンティスト株式会社
https://kwtool.co/company.html
- 料理男子の育成が、少子化社会を救う!?
- 「地下鉄では、ポールダンス禁止」世界の常識は日本の非常識
- 音と匂いで感じる、都市の新たな側面
- 金融以外のベンチャーが集まり始めたニューヨーク
- 西海岸 VS 東海岸の、アンビバレントな関係
- 北海道のGDPを5倍にする方法
- ヨーロッパに50年の遅れをとった、日本のインバウンド対策
- 「ニュージーランドでできることは、北海道でもできる」
- 住む場所にとらわれない、これからの暮らし方
- 世界の人口過密都市が抱える問題の答えは、東京にある
- 地方都市が挑むべき相手は、東京でなく世界
料理男子の育成が、少子化社会を救う!?
榊原:日本の少子化を解決し、外国人がもっと日本に来たくなるアイデアがあります。
大前:いいですね!
榊原:それは、初等教育における料理教育の徹底です。これには2つの狙いと効果があると思っています。
1つ目は、初・中等教育から徹底的に料理方法を実技で学ぶことによる、日本の食のレベルアップ効果です。
2つ目は、男子が家事上手になることによる、少子化の抑制効果です。
仮説なのですが、家事上手な旦那さんのいる家庭と、ほとんど家事をしない旦那さんのいる家庭の、出生率には違いがあるのではないでしょうか。
女性は、仕事に子育てに忙しいのに、家族のためにおいしい料理を作らなくてはならない。そんな時に、どかっと椅子に座ったままの旦那さんと、友達を招いてホームパーティができるレベルの料理男子で、家事もスイスイとこなす旦那さん。
女性からしたら、後述のような旦那さんとなら、結婚したいと思う確率も上がるのではないでしょうか。日常生活における負担感も減り、より安心して仕事ができるため、家計全体の収入も上がりやすくなる。
理想的な家庭環境を築くことが、根本的な少子化対策の一つになりうるのではないかと考えます。
「地下鉄では、ポールダンス禁止」世界の常識は日本の非常識
大前:僕の一番のストレス発散法は、料理なんです。他の事を考えず集中して包丁使う。
榊原:食材を刻むことは原始的な行為ゆえに、脳を休める効果があるかもしれません。料理をする人が増えることによって、日本人の自殺率の減少もありうるかもしれない。
大前:日本の100均では、包丁を売っていますよね。包丁は殺人の道具にもなりうるので、世界的には100均のような場所で販売されているのは珍しいそうです。
榊原:そうなんですか!
大前:アメリカから遊びに来たシェフの友達が、100均で包丁を見て、とても驚いていました。
榊原:「世界の常識、日本の非常識」という言葉がありましたね。私は去年、ニューヨークの地下鉄で「ポールダンス禁止」という貼り紙を見ました。
(一同笑い)
榊原:では、日本の地下鉄には、どんな禁止事項があるのか。「イヤホンからの音に気をつけてください」です。イヤホンから漏れる僅かな音を気にする国と、ポールダンスを禁止する国…。
私は去年、初めてニューヨークの地下鉄に乗りました。車内でギターを大音量でかき鳴らしている方がいて驚いたのですが、同じ車両に乗り合わせた人たちは、気にも留めない。更に、電車は何事もなかったかのように発車したんです。なんとも不思議な光景でした。
もう一つ驚いたのは、地下鉄に様々な人たちが乗り合わせていたことです。身なりの良い貴婦人やギャング風の若者、ホームレスのような格好の方やミュージシャン。古いイメージで、地下鉄は怖い雰囲気の人たちが主な乗客だと思っていたので、衝撃でした。
音と匂いで感じる、都市の新たな側面
榊原:実は、ニューヨークの街全体が、生ゴミ臭かったんです。
大前:街を五感で感じると、印象が全く違ってくることがありますね。インスタなどで共有するため写真を撮ることはありますが、においは強烈な印象を与えてくるのに、誰かと共有するのが難しい。
榊原:おっしゃる通りです。もし写真に音やにおいがあったら、印象が全く変わりますね。ニューヨークは、古い建物が多いせいか、街のいたるところでビルの解体・補強工事の音がものすごいんです。
大前:僕も、イギリスから日本に来た人に、「東京は静かだ」と言われました。ロンドンと比べて何が違うのかはわからないのですが、音も街々で違いがあるのかもしれません。
金融以外のベンチャーが集まり始めたニューヨーク
榊原:以前に大前さんが、ベルリンが面白いとお話をしてくださいましたが、ニューヨークも、これから面白くなりそうなんです。
リーマンショックをきっかけに、ニューヨークも金融だけでは危ないと、当時のブルームバーグ市長が考え、もう一度ベンチャー企業の誘致を開始しました。そして現在、バイオ・ファッション・観光・ITなどのベンチャー企業が、ニューヨークに集まり始めているようなんです。
大前:アメリカは、テックはカリフォルニア、金融はニューヨークというように、業種ごとに経済圏が全土に散らばっています。僕は、なんでニューヨークに全ての産業が集積されていないんだろうと不思議でした。良い人材もお金もある。サポートするリーガルだとかアカウンティングなどの機能も集まっているので、各業界のハブ的な都市になる可能性はあるんです。
榊原:ニューヨークはおそらく、ハブ的な都市になる局面に入っていくのではないでしょうか。成立はしなかったようですが、Amazonはニューヨークに誘致を受けて、巨大な場所を一度は確保していましたからね。
西海岸 VS 東海岸の、アンビバレントな関係
大前:アメリカにも、都市ごとに微妙な関係があります。特に有名なのが西海岸と東海岸。
僕が一緒に仕事をしている、カリフォルニアと東京で二重生活をしている方には、高校生の息子さんがいて、大学を選択する時期なんです。
西海岸にはUCLAやカリフォルニアスタンフォード、UCバークレーなど全米トップレベルの大学があります。しかし東海岸の人は、西海岸の大学をパーティーカレッジと呼ぶ。
東海岸の人たちは、西海岸にだってトップレベルの大学があるのは知ってはいるけど、パーティーやビーチカルチャーが盛んだから、遊ぶところで勉強するところじゃないと言うんです。
彼は「息子の大学は、同じ偏差値なら絶対に東海岸の大学を選ぶ。会社に入ってからの格付けが全然違う」と言っていました。
榊原:そうなんですか。しかし、西海岸の人も「東海岸の連中なんて…」って、言ってるかもしれませんよね。
大前:その通りなんです。
以前に僕は、アメリカで最も歴史のある街・ボストンに住んでいたました。アメリカ初の郵便局など、アメリカで最初のものは大抵ここにあります。そんなプライドの高い街でも、流行の発信地であるカリフォルニアに対しては、「悔しいけど、すごい街だよね」と、相反する感情を持っていました。
北海道のGDPを5倍にする方法
榊原:ここで都市を人口規模で見てみましょう。
東海岸のニューヨークと、その近辺の都市の人口を合計すると、世界で約8~9番目の大きさです。一方、西海岸のロサンゼルスとその近郊の都市は、18位。
大前:都市の人口規模では、相当の格差があるんですね。
榊原:実は、大阪・神戸・京都経済圏は、ロサンゼルス経済圏よりも人口が多い。ロサンゼルス経済圏が約1,500万人、大阪・神戸・京都経済圏が約1,700万人です。
曽志崎:面積の規模でいうと、圧倒的に西海岸が有利だと思うのですが、面積は都市の経済規模に関係しませんか。
榊原:土地の面積の大きさで都市の経済規模は、はかれないと思います。やはり人口かGDPを見ます。
榊原:例えば四国とデンマーク。人口規模は変わらないのに、デンマークのGDPは四国の3倍です。北海道とスイスも人口規模は同じくらいなのに、スイスのGDPは北海道の5倍以上。沖縄もハワイと人口規模はほぼ同じですが、ハワイの方が約3倍も経済規模が大きいんです。
では、北海道はこれからどうあるべきか。
大前:いきなりですね。(笑)
曽志崎:北海道はスイスのように、今よりGDPが5倍になる可能性があるということですか。
榊原:おっしゃる通りです。日本の経済規模や人口規模、国土の豊かさを総合して考えた時に、道州制の議論にもつながるのですが、四国も北海道も、ひとつの国と同様の独立心を持てば、それぞれ独立できる潜在力を持っていると思っています。
大前:GDPを上げるためには、それぞれの都市独自の打ち出しを、世界に向かって発信していくことも重要ですね。
ヨーロッパに50年の遅れをとった、日本のインバウンド対策
大前:以前に榊原さんは、イタリアの州ごとの地方創生の成功例をお話くださいましたね。
榊原:イタリアの田舎街など、地方創生が難しい場所での成功事例をご紹介しました。
まず、ヨーロッパにおける地域復興は、主に他国の人たちを引きつけようとしたものです。一方、日本は最近まで、他の都道府県に住む人が対象でした。しかし、この5年で変わって来たようです。
イタリア・スペインは、インバウンド人口を増やすことに4~50年前から取り組んできた。ある、皮のなめし産業で頑張ってた都市は、早い時期から世界に向けて発信をして、成功しました。車に特化した街では、フェラーリの部品を作って、ほかの都市との違いを明確にし成功。繊維業界でもブランドを確率し、現在でもイタリアの生地が世界ーと思うテーラーも多い。品質を冷静に考えると、日本の生地の方が実は良かったりするのですが…。
大前:巧妙なブランディングと、自分たちの製品に付加価値をつけた点が素晴らしい。
榊原:しかし、私は希望を持っています。よく日本はスタートが遅いと言われます。ブロードバンドの価格が先進国一高いと言われていた時、孫正義さんが一気に値下げをした。そして、今ではブロードバンドの価格は先進国一の安さです。
日本人には、ひとたび方向性が決まれば、国民全体が一丸となって、困難も成し遂げてしまう力があるんです。
大前:そうですね。
榊原:現在、外国人観光客数は年間3,000万人前後。インバウンド人口をイタリアやフランス並みにすると政府は言っておりますが、実現するためには、更に2倍以上の外国人に来ていただく必要があります。
では、日本はインバウンド人口を2倍にできるのか。もちろん、余裕でできると思います。もしかしたら、世界で一番インバウンド戦略のうまい国になるかもしれません。日本は少し着手が遅かっただけで、やり出したら世界一上手にやりますから。
「ニュージーランドでできることは、北海道でもできる」
大前:以前もお話ししましたが、発見してもらうために、世界に向けて正しく情報を発信していけばいいだけだと思います。
20年ほど前の話ですが、僕の北海道の友達宅の隣に、ニュージーランド版地球の歩き方のライターさんが住んでいたそうです。ライターさんから、ニュージーランドの魅力を散々教えられ、友人はニュージーランドを旅することにしました。
山をトレッキングしたり、釣りをしたりのアウトドア三昧。ニュージーランドの山々では実際に、世界中の人たちがトレッキングしていたそうです。でも友人は「ニュージーランドでできることは、ほぼ全て北海道でもできる」と感じた。
(一同笑い)
大前:友達は、北海道とニュージーランド、持っているコンテンツは変わらないのに、何が違うんだろうとツーリストに聞いてみたそうです。多くのツーリストはインターネットの情報で、ニュージーランドの魅力を発見し、世界中から集まって来ていたそうです。
榊原:今では北海道も、外国の方が増えました。ということは、少しずつ世界に北海道の魅力を発信できているということでしょうか。
大前:僕はスイスのチューリッヒに出張で行った際、会議のアフターパーティ会場のバーテンダーから、「この間、スノーボードで北海道に行って来たよ」と言われました。チューリッヒにはアルプスあるのに、なぜわざわざ北海道に来たのか。彼は「北海道の雪質の良さはワールドフェイマスだ」と言うんです。北海道も、そんなに有名になったかと驚きました。
住む場所にとらわれない、これからの暮らし方
榊原:ニセコなどの雪質は、世界トップクラスだそうですね。ただ、北海道は寒い。
大前:本州の人は、北海道はすごく寒いと言います。しかし、僕が北海道の銀行員時代には、大阪支店に転勤が決まった時に「お気の毒様ですね。夏、しみますよ」なんて言われましたよ。
(一同笑い)
榊原:そうですか。北海道の夏は、居心地がいいらしいですね。
大前:みんな極端な部分をハイライトしているだけなんですよ。
榊原:なるほど。しかも、北海道や東北の冬の室内は暖かいそうですね。
大前:そうです。思い切りストーブを炊くので、たまに北海道に帰ると、家の中が暑くてしょうがない。
榊原:逆に京都の冬は寒いです。暖房を強くかける家は少ないし、むしろ寒いのを我慢して過ごしている。
大前:昨今は、ワークスタイルが大きく変化しつつあります。これからの生き方として、定住ではなくて、住むところをその時々で選ぶという選択肢も、あるのではないでしょうか。
榊原:住む場所にとらわれずに、できる仕事が増えて来ましたね。パソコンやカメラが一台あれば、なんでも世界中に発信できるようになりました。
やはり、最後は直接会って会話することが重要であるとは思いますが、その前にデジタルでどこまで効果的な関係性が築けるのか、プロジェクトかコワークの効率性や効果を高められるかを、極めてみるのもありかなと思っています。
世界の人口過密都市が抱える問題の答えは、東京にある
曽志崎:都市の人口規模とGDPの話から、様々なコンテンツの話になり、日本の都市にはまだ可能性あるという話になってきました。
次の10年で日本は、リニア新幹線の開業に伴い、東京と大阪と名古屋がより近くなります。そうすると、都市や経済圏の捉え方が変わってくるのではないでしょうか。
榊原:そうですね。時間的な距離が多少近くなることは、一つの経済圏を生み出すほどなのかは注目ポイントです。
よく東京に首都機能が集まりすぎだと、以前から討論されてきました。ところが逆に、ひとつの都市に便利な機能が集積していないと、都市としての吸引力が下がると言う意見もある。特に日本は、東京という街の存在が大きく、東京から様々な機能が全国に移転してしまった場合、街の吸引力は下がるかも知れないと言われています。
都市は、集積に向かう方がいいのか、分散に向かった方がいいのか、非常に難しい問題です。都市として集積しすぎると、治安が悪化します。例えばジャカルタ・デイリー・サンパウロ・ムンバイなど、世界には多くの大人口都市があり、犯罪も多く、スラムも増える一方です。
ところが、これらの都市よりも人口規模がはるかに大きいのは、東京・横浜圏なんです。
大前:そうなんですか!
榊原:東京・横浜圏の犯罪率は、ジャカルタなどの大都市の数10分の1以下です。都市として集積していくのが安全かどうかはの議論は、東京・横浜圏の存在が一つの答えになるのではないでしょうか。
もちろん東京・横浜圏だけに限らず、世界には、集積度が高まりつつあるけれど治安も良くしていこうという都市が、今後もたくさん出てくると思います。
地方都市が挑むべき相手は、東京ではなく世界
曽志崎:日本が今後、イタリアやフランスのような環境立国になっていくためには、地方独自のコンテンツの発信で、都市の経済規模を個々に大きくしていかなくてはなりません。リニア新幹線開業で都市が集積に向かう中、地方都市が求められてるのは、独立。
この先、地方都市がうまく羽ばたいていくには、双方の視点を持って進んでいかなければならないのかなと思いました。
榊原:おっしゃる通りです。
東京の魅力は、集約や集積により、ますます高まります。大阪も日帰り圏になり、更に東京への集積率が高まるでしょう。
でも一方で、粒ぞろいの日本の地方の経済圏は、世界で戦える強さを持っているはずです。地方都市は、東京と仕事をするのではなく、独自の魅力で直に海外と仕事をする力を持たなくてはならないんです。
大前:北海道にたまに帰ると、地元の経営者の人たちと会ったりします。そこではよく、「この社長は外貨を稼いで来る」という会話を耳にします。ここで外貨とは、東京のこと。つまり、北海道以外から売り上げを立てていることがすごい、と言っているんです。
どの経済圏も、最終的には経常収支というか貿易収支というか、どれくらい外貨を稼げるのかが焦点になってきそうですね。
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