世の中の興味深いマーケティング事例や大きな数字、意外な事実など、経営者 榊原直也 のアンテナに留まったビジネス話題をご紹介する「ばらさんのBusiness Talk | バラトーク」。
今回のテーマは、ルールの「のりしろ」について。あいまいであるからこそ、そこにはビジネスチャンスが無数に存在しています。変革の中で、人生百年時代を生き抜くための考え方についてディスカッションしました。
◇ 出演者 榊原直也 / 曽志崎寛人
◇ ゲスト 村西重厚さん
提供 : データ・サイエンティスト株式会社
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- 人はルールの「のりしろ」の中でどのような判断をするか?
- 不名誉な武勇伝を語る人を動かすメッセージ
- GoogleやAppleも経験した、成長フェーズによるモードチェンジ
- 「のりしろ」はビジネスチャンスの宝庫
- 変化をとらえて人生百年時代を生き抜く
人はルールの「のりしろ」の中でどのような判断をするか?
榊原:例えば、赤信号なのに家族が間違って前に出てしまったとしましょう。そこに車が近づいてきたら、どう判断しますか。信号を無視してでも、助けるのが普通ですよね。どれだけルールを守ることに固執している人であっても、生存反応として最後はどこか柔いところを持っている。われわれ人間は、実に絶妙な判断をしていますよね。
村西:ルールの「のりしろ」のようなことだと思います。
例えば、メーカーがよくやる「期末の押し込み」という手法があります。要は3月31日に出荷すれば今期の売上になるので、予算達成のために、流通会社に在庫を買ってくれとお願いするんです。その時に「押し込む代わりにリベートをつけますよ」と交渉をすることもあります。
押し込みとリベートまではOKですが、たまにあるのが「いざ蓋を開けたらモノがない」というケースです。架空伝票で押し込むのは、「ちょっと川を越えたな」といったところになってきます。
そのあたりの微妙なところを、日本の会社では上司が黙認するんですよね。それで育った営業マンがいずれ上司になると、職場の文化になって、徐々にたがが外れていきます。
榊原:正義感に溢れた若手はどういう反応をするんですか。
村西:良しとせず会社を去るか、染まるかのどちらかですね。たいてい染まります。
榊原:狭間でたくさんの人が悩んでいそうですね。
若い頃、IPOの手続きに関わったことがあります。企業が上場する際には、ホンマに大丈夫かどうか主幹事証券会社の審査部からチェックが入るんです。いろんなことをヒアリングされたり、規約や内部基準の提出を求められたりするんですが、「こういう局面において、御社ではどう判断するんですか」と良識を問うような質問はひとつも聞いたことがありませんでしたね。
村西:聞いたことがないんですか。
榊原:当時もコンプライアンスが叫ばれていた時代でしたが、少なくとも十数年前はありませんでした。抜き打ちで現場社員にヒアリングをして、もしそんな話が出るわ出るわということであれば上場させるのは危険、とすれば良さそうですよね。
不名誉な武勇伝を語る人を動かすメッセージ
村西:ただ、上司が「俺が若い頃はな」と武勇伝を語り始めることがあるじゃないですか。最近ニュースになった芸人さんの闇営業のように、昔の商慣習の中で当たり前だったことも、今は世間が許さなくなっている。過去を武勇伝として語るのか、「今はもっとちゃんとやろうね」と語るのかは、結構人によるのではないでしょうか。
榊原:もしそういう武勇伝を持った方々を一堂に集めたとして、しげさんが社長だったらどんな言葉をかけますか。
村西:「今の枠組みで精一杯力を発揮してくれ」というメッセージを考えますね。コンプライアンスとして守るべきことは守る。でも、分解していけば他にできることはたくさんあるんですよ。
例えば夏休みの宿題みたいなもので、3月31日までみんな本気で売らないという悪癖がよくあります。いつも期末の売上だけが高い。だからもっと前倒しでお客さんとコミュニケーションをとって、売上の平準化をしようよと声をかけます。昔はおおらかな時代だったけど、これからの時代はそういう文化にしていこうということです。
榊原:なるほど。そっしーさんだったらどういう言葉をかけますか。
曽志崎:言葉というよりも、人事制度や評価制度を変えます。
おそらく、数字が全て評価を決めるKPIだったから、架空伝票をやりとりしてでも売上を上げることに執念を燃やしていたわけじゃないですか。でも、例えば「この四半期で何回お客さんと商談をして、どういうやり取りをしてきたか」という定性的なKPIも見るよう評価基準を変えれば、武勇伝は過去のものとなるのではと思います。武勇伝を持っている人に「もうそれはやるな」と言って、反発されて社員がいなくなったらそれはそれで困ってしまうかなと。
村西:経営者に相当な覚悟が必要になると思いますよ。上場会社の場合、売上利益の責任をそのままストレートに現場へ下ろしていくことが、経営者にとっては一番楽なんですよね。もし定性的なKPIも入れるとすると、何のKPIを入れるべきかという経営者の責任が問われてきます。「数字の責任は取るから、行動の責任はお前が取ってくれ」という指示を出す覚悟があるかどうか。これは結構深い問題ですが、経営者の本来あるべき姿だと思います。
ただ、数字の責任をそのまま担当者に背負わせて、「なんとかしろ」と上位の管理職が言っているというのが、現状としてはまだまだ多いのではないでしょうか。
曽志崎:これは一筋縄ではいかないテーマですね。バラさんだったらどうするんですか。
榊原:かつてロシアで脱税がひどかった頃、「期日までに白状した人はみんな無罪放免。それ以降は絶対許さんからな!」としたことがあったんですよ。すると期日までにものすごい数の申告があったんですって。個別に撃退していくのもいいでしょうが、経営という非常に難しいレベルで事に当たる場合においては、ドカーンと一刀両断するような策も必要になるという例です。
ですから、「今まで皆さんがやってきたことは会社を伸ばす起爆剤になった」「でもこれからは会社の文化を変えたいから、どんなことがあったのか教えてくれへんか」と言って事例を千も二千もリストアップしていくのが、大事なことかもしれません。
GoogleやAppleも経験した、成長フェーズによるモードチェンジ
村西:ある意味、企業の成長フェーズにおいてはそういう局面も必要な時期があると思うんです。
榊原:「アクだし」というやつですね。
村西:イリーガルなこと以外は全部やってでも、売上を重ねていかなければならない時期はあります。成長フェーズが一旦落ち着いたら、社会的な意義や働き方も考えていくようモードチェンジする。はじめからお行儀のいいことばかりしていると、なかなか成長ができないという現実もあると思うんですよね。
曽志崎:「邪悪になるな」というGoogleの社是も、果たして創業時からあったのかといえば恐らくそうではないと思うんです。会社のフェーズが変わったタイミングで、ミッションステートメントに定義されたという経緯があったのかなと想像します。
榊原:Googleでさえも、創業当初はやんちゃだったんです。正式な許可も得ずに、スタンフォード大学のサーバーコンピューターを勝手にガンガンつなぎ合わせてすごい量のデータ処理をしたもんですから、何回もネットワークが落ちたっていうじゃないですか。
いわゆる「無邪気」と言うんでしょうか。まだ社会のルールをわかっていない子どもだからこそやる、悪気のないいたずらのようなものですよ。その時にげんこつをもらって、たんこぶがいっぱいできたからこそ「邪悪になるな」と思うんちゃいますか。
村西:スティーブ・ジョブズも、電話を無料でかける機械を作って大量に儲けて、そのお金でAppleⅠを開発したというエピソードがありますね。
榊原:いろんなことが無邪気なところから始まるんでしょうけれども、それでも法令は守らなければいけません。その中で、どれだけ皆さんにいいサービスを提供していくかということでしょうね。
「のりしろ」はビジネスチャンスの宝庫
村西:「のりしろ」を見つける能力って大事ですよね。線には必ず幅があるので、この幅の中でどう動くかです。
榊原:赤信号も、どこまで行けば渡ったと確定できるのかまでは、おそらく法律には書かれていないでしょう。横断歩道の4割のところで引き返したら、赤信号を渡ったと言えるのか。でも車がビュンビュン走りまくってるところに4割出るって、危険行為でしょう。何の法律が適用されるんでしょうかね。
まだ世の中が規定できていないところにチャンスがいっぱいあったりするので、ビジネスは面白いですよね。サイバー空間なんて存在もしていなかった時代は、誰も法律を考えられなかったわけですし。
村西:ホームページ作成はよく建築に例えられますが、今の建築基準法って実はここ100年ぐらいのレベルの話らしいです。
榊原:そうなんですか。
村西:阪神淡路大震災で多くの住宅が倒壊しましたが、東日本大震災では津波の被害は大きかったものの、住宅の倒壊は少しましだったんです。阪神大震災の後に新しい法律ができて、それに則って作られた建物は比較的無事だったらしいですね。
大きな災害が起こる度に法律が強化されて日本の住宅は強くなってきましたが、これはたかだか100年ぐらいの話です。その前は、大工さんや「俺はプロだ」みたいな人たちが、法律も含めて銘々勝手にやっていたんですよね。Webは今その状態なんです。
榊原:確かに。Webデザインを決めるソースコードの書き方も、ある程度決まってるとはいえ、みんな好き放題書いていますよね。見た目は綺麗でも、ソースコードを見たら間違っていることも結構あります。
村西:道具の使い方を知っている人が、設計まで全部やっちゃっているイメージですよね。もちろん素晴らしいWebサイトを構築されている宮大工みたいな人もいらっしゃいますが、「ちょっと俺トンカチ打てるから」みたいなDIYレベルでも成立してしまっている。ルールがないので評価のしようもない、というのがWebの現状かなと思います。
変化をとらえて人生百年時代を生き抜く
榊原:江戸時代のお医者さんを描いた、手塚治虫さんの『陽だまりの樹』という名作があるんですが、そこにも似た話が出てきます。
ある女性が盲腸になって苦しんでいる。オランダ医学を学んだばかりのお医者さんは、「明らかに外科手術が必要や」と分かるんですが、彼はまだ新米なんです。当時の既得権益を持っているお医者さんは、漢方医なわけですよ。薬草やお茶を煎じて飲ませるみたいなレベルの処方しかできなくて、当然女性は死んでしまう。
その若いお医者さんは悔しくて悔しくて、役人に賄賂を払ってその女性の死体を解剖するんです。そして、「こんな医学は絶対に良くない」「さらに勉強しないと」と思うというシーンがあるんですよ。
今の時代では成り立っている職業でも、数百年後に振り返ったら「よくあのレベルでこの職業名を名乗ってたな」みたいなことが出てくるかもしれませんね。当時は法医学者といえば、国で一番偉いお医者さんチームだったわけでしょう。でも今の僕らから見たら、手術のひとつもできず、薬草を調合したりお茶を選んだりするだけの人たちやってことじゃないですか。
村西:織田信長の頃は「人間五十年」と言っていましたが、今は百年時代です。50歳が見えてきても、まだ折り返し地点。倍生きるわけですから、生き方そのものもかなり変わってきます。今までやってきたことがこれからも通用するのか、自分がどう立ち向かっていくのか、職業の変化という点からも考えるところがありましたね。
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