人間には、複雑な物事を一括りにしてしまう思考停止欲求があります。人々の思考停止は、世の中の多様性の減退させ、「固定観念」を生み出します。
働き方の多様化の中で、仕事選択の意思決定を迫られる我々現代人の「副業」と比較すると、江戸時代における「複業」は一体どの様に映ってくるでしょうか。
江戸時代の「士農工商」という厳格な統治機構では、意外にも「複業」は当たり前でした。平日は武士、週末は農民など、同時にいくつもの職業・役割を意図的に使い分ける「壱人両名」という言葉がその光景を物語っています。
ベンチャー魂に溢れ、自由な発想で「複業」に挑戦する人々がいた江戸時代。そして、その挑戦を「黙認」するという体制のバランス関係が、人々の労働観・生活観における豊かな多様性が存在したと考えられます。
今回は、副業で太陽光発電・不動産ビジネスを手掛けたご経験のあるMASAさんと、江戸時代の労働観を繰り広げる村西重厚さんをゲストに、多様な働き方を許容する社会の仕組みについてディスカッションしました。
◇ 出演者 榊原直也 / 曽志崎寛人
◇ ゲスト MASAさん / 村西重厚さん
提供 : データ・サイエンティスト株式会社
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- 個人が副業として発電ビジネスをはじめる時代
- マンションの屋上を活用するビジネスアイデア
- 教科書には載っていない江戸時代の「士農工商」の実態
- 複数の身分で自由に生きた、ベンチャー魂溢れる江戸時代の人々
- 無味乾燥なファクトから人生の物語を読み解く楽しさ
個人が副業で発電ビジネスをはじめる時代
榊原:最近副業がブームになっているイメージがありますが、例えばどういうものがあるでしょうか。
マサ:私は発電所をやっています。最初は業者にも銀行にも断られまくりましたけど、公庫からお金を借りて作りました。
榊原:発電所ビジネスって、個人でもできるんですね。具体的には日々どういうことをやるんですか?
マサ:ほったらかしですね。売電収入の単価は20年間固定で決まっていて、日射量も平均するとそんなに変わらないので、全部データで計算できるんです。リスク要素は地震だけ。地震以外は保険でカバーしています。
榊原:ということは、最初にその権利を押さえるところがポイントになるわけですか。
マサ:プロは権利を押さえるところからやるみたいですね。私はその権利を押さえている業者を見つけてきて、施工しました。千葉県の土地に100mぐらいパネルが並んでいます。ちょうど子どもが生まれた5年前に作ったんですが、2000万円公庫で借金して、15年で返済が終わるようになっています。そこから5年間は利益になるので、子供の教育資金になればと思って。
榊原:なるほど。じゃあ2000万円のワンルームマンションを買うよりも、利回りはいいしリスクも低いと判断したわけですか。
マサ:そうですね。ワンルームマンションは実質利回り3%から5%ぐらいで、長ければ30年借りられます。一方発電所の借入金返済期間はだいたい15年ですが、表面利回りが10%ぐらいなので、返済ペースは早いです。
デメリットとしては、売却先のセカンダリーマーケットがほとんど未整備であるという点が挙げられます。太陽光パネルは出力10kWを境に家庭用と産業用に分かれているんですが、家庭用の買い取り期間は10年間なので、ちょうど今買い取りが終了した発電パネルがどんどん出てきているんです。そこへ東急などいろんな会社が10円以下で買い取ると言っているようですが、10年前は30円とか40円でしたから、買い取り単価が不安定になっていくということですね。産業用も20年間は固定価格ですが、20年後にどうなるか・・・。
村西:価格が変動するのであれば、いわゆる「電気の変動相場市場」が生まれるんでしょうか。例えば猛暑で電力が逼迫すると、買い取り価格が上がるとか。
マサ:すでにそういうマーケットはありますね。これからは更にいろんな買い取りを行う会社が出てくると思います。
マンションの屋上を活用するビジネスアイデア
榊原:マンションってすごい電気使うじゃないですか。しかも各住戸ごとに電力需要の盛り上がる時間帯も違うでしょ。例えば一人暮らし世帯では朝と夜だけ電力が多めに使われて、ファミリー世帯では子供が帰ってくる夕方あたりからガーっと増える。マンションごとの電力デマンドデータを日本全国で押さえていけば、無駄のない計画配電も可能になるんじゃないですか。
村西:ビッグデータですね。あとは蓄電池の能力が上がっていけばマンション単位でバッファを吸収できるので、さらにギャップを埋めていくことができそうです。
榊原:あとマンションの屋上といえば、風が強いんだからプロペラでも付ればいいのにって思っていたんです。でもよく聞いたら、ものすごい重低音が出たり、鳥がぶつかって死んだりしてちょっと面倒くさいらしいですね。
村西:最近はドローンの基地にするという話がありますね。
榊原:ヘリポートならぬドローンポートですね。小さなマンションでも屋上で荷物の受け取りができるみたいですよ。でも、風の強い日はどうするんでしょう。
村西:それなら屋上じゃなくてベランダに直接持ってきて欲しいですよね。楽天が一部テスト的に始めているそうですよ。
榊原:アウトドア用品なんかは外に落とせばいいからやりやすそうですね。
教科書には載っていない江戸時代の「士農工商」の実態
村西:私、本籍は滋賀県なんですよ。近江商人の端っこの方が私のルーツです。
マサ:じゃあ、同じ近江商人ですか。「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」ですね。
榊原:今は存続しようと思ったらさらに「財務よし」を加えた「四方よし」でないとまずいですから、なかなか難しいですね。最近サブスクリプションという継続課金モデルがもてはやされてますけど、そうでもしないと収益が安定しないんでしょう。
村西:近江商人の特徴として、近江だけでなく各地方にも拠点があるというところが挙げられます。それに関連して、『壱人両名:江戸日本の知られざる二重身分』という本で面白い話を読みました。江戸時代の身分は「士農工商」に分かれていて、「農民は差別されていた」と授業で習ったじゃないですか。でも実態は全然違うことが最近の調査で明らかになったそうです。
現代では、個人は本籍、法人は登記簿などの形で身分が特定されますよね。しかし江戸時代では、いくつかの「本籍のような統治の仕組み」があったんです。
例えば武士であれば、南町奉行や勘定奉行のような仕事の所属が、戸籍の役割をしていたんです。一方農民は「どこどこ村の何々家の誰」といった土地ベースで統治されていて、町人やお坊さんもそれぞれの統治機構がありました。
ただ、農民が「週末だけ幕府の仕事を手伝ってくれ」と頼まれることもあって、その時は幕府と農民ふたつの身分を持つというケースが有り得たわけです。先ほどの近江商人の話のように、いろんな土地に拠点を置くこともあったんですね。
複数の身分で自由に生きた、ベンチャー魂溢れる江戸時代の人々
マサ:でも、それだと管理できないですよね。
村西:揉め事があった時には問題になったようです。例えば「しげ」がお金を返さないとしても、「俺は『しげ』じゃない、『しげぞう』だ」「こっちの身分が本当の俺なんだ」みたいなことを言うわけです。
なぜこれがわかったのかというと、当時の統治機構がちゃんと記録を残していたから。「こういう揉め事が起こったらどうしたらいいですか」と地域からお伺いの手紙を出すと、幕府から「よきにはからえ」みたいな返事が返ってきて・・・それが全部古文書として残っていた。裁判記録のような無味乾燥なものでも、ひとつひとつ読み解いていくと、江戸時代の人々が自由に生きていた様が見えてきたんですね。
榊原:結構ベンチャー魂に溢れた国だったのかもしれないですね。
村西:そうです。宮仕えが嫌で商売を始めるといった感じですね。「身分を片付ける」と言ったらしいですが、そのままの方が便利なこともあるということで、元の身分を片付けずに商人をしているケースもあったようです。
曽志崎:「サラリーマンと個人事業主の身分を両方持っています」みたいなイメージですね。
榊原:藩と幕府の関係性を今で言うと、国と国の間に国連があったり、国際裁判があったりするようなものでしょう。もしかしたら江戸幕府の統治方法は、今後国の上にどんな実務や調停ノウハウを持つべきかということのヒントにもなる可能性がありそうです。
それにしても、江戸時代に複業がそれだけ当たり前だったというのは驚きですね。
無味乾燥なファクトから人生の物語を読み解く楽しさ
村西:幕府からの回答を判例として積み上げて、今後の判断基準にするということは当時からあったようです。まだ研究の余地があると思いますが、完全な法治国家ではなく、少し「手心ののりしろ」があったようなんです。みんなに迷惑をかける人は罪が重くなるように仕向けるとか、その手心加減まで全部書類に残っているのが面白いですね。
榊原:奉行ごとに判断が違いすぎるのをなんとかしようとして、「こっちではこういう判例があるで」と教えていたんでしょうね。あくせくしている幕府の姿が目に浮かびます。
村西:ファクトにあたることの楽しさを感じますよね。例えば官報って無味乾燥な文章ですが、よくよく見ていくと定期的に行旅死亡人情報が出るんです。「何月何日どこで見つかって、こういう遺品を持ってました」というのがこそっと載っているんですが、その背景にはものすごいドラマがあるはずじゃないですか。
実は人の有様って、いろんな記録に残っていってるんですね。いくつかを重ねていけば、その人の人生がありありと物語として浮かび上がってくる。左脳的な「ファクト」が、右脳的な「物語」に繋がっていく過程は興味深いですね。
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