世の中の興味深いマーケティング事例や大きな数字、意外な事実など、経営者 榊原直也 のアンテナに留まったビジネス話題をご紹介する『ばらさんのBusiness Talk | バラトーク』。
今回のテーマは、社会の多様化のあり方についてです。古今東西、より良い組織を作るヒントが散りばめられています。今回が特別ゲストの大前さんと石川さんをお招きしての最終回です。
◇ 出演者 榊原直也 / 曽志崎寛人
◇ ゲスト 大前和徳さん
提供 : データ・サイエンティスト株式会社
https://kwtool.co/company.html
- 一筋縄ではいかない多様性のコントロール
- 60以上の民族が働く、イケてるユニコーン企業・N26とは
- もしあなたがヨーロッパ諸国でひとつの組織を作るとしたら?
- まもなく訪れる、アジア人を集めて組織を作る時代
- ローマ帝国とAirbnbの意外な共通点
- なぜ徳川政権は250年続いたのか
- ルーツに立ち返ることで見えてくる、日本人のポジション
- アメリカのコールセンターが浮き彫りにした、日本人の武器
- Netflixが実践する、ペルソナ不在時代のマーケティング
一筋縄ではいかない多様性のコントロール
大前:社会の多様化は良いことなのか否か。我々の将来にとって、とても大きなテーマですよね。
榊原:おっしゃる通りです。多様性の良し悪しは、どのレベルで多様性を認めるかが鍵になると思います。色のついた光を混ぜすぎると、真っ白になってしまう。絵の具も、色々混ぜすぎると真っ黒になります。多様性を求めるがあまり、何でもかんでも放り込んでいくだけでは、均一化してしまうだけ。
では、極致を保ちつつ平均させない方法はないのでしょうか。
多様化した社会では、全体的に生卵をゆるく握り、黄身と白身を分離した状態を保つかのような統制が理想的です。生卵をぎゅっと握ったら、黄身と白身が混ざってしまう。
多様化することと、ニッチを残すことは、両立するでしょうし、違う力学で動いているのではないでしょうか。だから、手のひらの上で、黄身と白身が分離している状態も、黄身と白身が安定して乗っている状態も、やり方次第では可能だと思います。
ただ、コントロールは難しく、少しの手違いですぐに壊れる。ここに政治の難しさがあるのかもしれません。
60以上の民族が働く、イケてるユニコーン企業・N26とは
大前:なぜ多様性は本当に良いのかという話を持ちかけたのかというと、僕は多様化の進むヨーロッパに、よく行くからなんです。本当に多民族な土地だなと思います。
榊原:飛行機で30分で、別の国に着きますね。
大前:電車で30分で国境をまたげます。
そのため、ヨーロッパにある会社は、本当に多民族で多言語。果たしてヨーロッパの企業は組織としてうまくいっているのだろうかと、いつも疑問に駆られます。
しかし榊原さんのお話を伺っていて、ヨーロッパにある企業の方達は、生卵を握りつぶしてはいないと思いました。それぞれの個性は残しつつ、適材適所でうまくやっているように見えます。
ヨーロッパの今が、よくわかる話があります。
先週ヨーロッパで行われたイベントで登壇された、N26というベルリンのイケてるネット銀行の人事部長の方に質問する機会がありました。
榊原:どうイケてるんですか。
大前:N26は、近年新規口座の顧客がかなり増えている、ベルリンにあるユニコーン企業です。人事部長さんはオランダ人の女性。彼女が入社した当時200人だった社員が、現在2,000人になろうとしています。職員の国籍は60カ国にも昇るそうです。
世界の約1/3の人種が、N26で働いているんです。
もしあなたがヨーロッパ諸国でひとつの組織を作るとしたら?
大前:僕は、60カ国もの国籍の方がいて、N26はどうやって会社を統制してるのか、不思議に思いました。そこで「あなたがヨーロッパ人を集めて組織を作るとしたら、どの国籍の人に、どの仕事を割り当てますか」という質問をしてみました。
人事部長は、こう答えました。
「ビジネスデベロップメントはスイス人。バックオフィス業務はドイツ人。人事やコミュニケーションはオランダやデンマークなどの、小さい国の人がいいですね。小さい国は、他国との交流を密にしなくてはならないため、コミュニケーション能力が高いんです」
さらに彼女は、「マーケティングはスペイン人とイギリス人のコンビがいい。ラテン系の心の通ったセールストークと、イギリス人独特のユーモアで、マーケティングメッセージを仕立て上げたら、いいものができそう。そして数字はフランス人。N26のCFOもフランス人ですよ。イタリアはデザインセンスが優れているので、商品開発ですね」と答えてくれました。
榊原:なるほど!
まもなく訪れる、アジア人を集めて組織を作る時代
大前:「ヨーロッパ諸国を集めて組織を作るとしたら」の質問は、各国のお国柄が出てすごく面白い。しかし、恐れていた通り人事部長さんに「アジア人でチーム組んだらどうなるの」と、質問を返されてしまいました。
(三人苦笑)
大前:我々は答えることができるのでしょうか?
石川:答えられない可能性が高いですよね。
榊原:日本人は、アジア各国の人々をそこまで把握してないかもしれませんし、直接接する機会もヨーロッパほど多くはない。「49都道府県の人を集めて組織を作るとしたら」と質問されるイメージに近いのでしょうか。
大前:ヨーロッパは、英語を共通言語にしてコミュニケーションが成立します。そのため、アジアより多民族社会が成り立ちやすいのかもしれません。
石川:「アジア人を集めて組織を作るとしたら」…、この質問をヨーロッパ人にプレゼンするのは、難易度が高いですね。
大前:しかし将来、アジア人を集めて組織を作る社会が、間違いなく訪れる気がします。
石川:もう、訪れている気がします。
ローマ帝国とAirbnbの意外な共通点
前回、僕はAirbnbのインセンティブの仕組みが好きだと話しましました。
ホストとしてゲストを自分の家をに迎え入れる仕組みを、より良くするためAirbnbは、「スーパーホスト」というランク付けシステムを取り入れています。
スーパーホストになるためには、5つ星評価のレビューを、何軒も獲得しなければなりません。ホストたちは5つ星を獲得するために頑張ります。
僕が以前、ロサンゼルスで泊まったAirbnbの加盟の宿のホストも、スーパーホストでした。彼はスーパーホストでありながら、「もっと良いゲスト体験を提供できるようになるために宿を改善したいので、ぜひレビューコメントで書いてくれ」と、努力を怠っていませんでした。
彼の意欲を駆り立てているのは、ほかでもないAirbnbの仕組みです。Airbnbの仕組みは、ローマ帝国に似ています。多民族を受け入れつつも、市民権を獲得するためには条件をクリアする必要があるよ、と。Airbnbのルール設定は絶妙なんです。
Airbnbもローマ帝国も、自由度の高い仕組みの中で、インセンティブの仕組みだけは厳格です。インセンティブの仕組みをしっかり作れるかどうかが、良い組織を作る一つのターニングポイントになるのではないでしょうか。
なぜ徳川政権は250年続いたのか
石川:我らが日本の江戸時代にも通ずるところはあります。徳川家康はなぜ、250年間のパックストクガワーナと呼ばれる時代を築けたのでしょう。
榊原:世界に稀にみる時代ですよね。
石川:江戸時代も、各藩が武力を持ちすぎないよう厳格なルールがありました。徳川家康は過去の中国をはじめ、各国の歴史を学び、しっかりとしたルールを作りました。それゆえの長期政権だったと思うと、長続きするよい国を作るためには、多様性を受け入れるだけでなく、良い仕組みがなくてはならないことがわかります。
為政者・経営者が、絶妙な仕組みを作れるかどうかが、分水嶺なのです。混ざってしまう卵なのか、そうでないのかの線引きは、とても奥が深い。
国の統治もアプリも、黄身も白身も生かしきるために、生卵をゆるく持つ力とインセンティブが大事ですね。
ルーツに立ち返ることで見えてくる、日本人のポジション
石川:日本では現在、様々なアジアの国の方が働いています。彼らとチームを作る際のルールや仕組み作りのエッセンスは、ヨーロッパに学ぶべき点が多くあります。
大前:日本も将来、人口減少にともなって、様々な民族の方たちとコワークする社会になるのは明白ですから、ヨーロッパ社会の多様性は、世界の先行事例として参考にしたいです。
榊原:元々日本人は、様々な民族の方たちとのコワークは、得意なのかもしれません。さらに、多様な民族の中で極めて特異なポジション、つまり際立った黄身の一つになってのける能力も高い。このキャラを意識して、活躍していきたいですね。
石川:日本は、渡来人によって形成されていった歴史があります。だから我々は、多民族だったルーツにもう一度思いを馳せ、日本の食や漫画などが、多様性の中でどのように培われたものなのかを振り返るべきです。そうすると、国際社会の中で日本人としての立ち回り方が変わってくるのではないでしょうか。
大前:漠然と多民族国家だとは思っていたけれど、実はダイバーシティが脈々と流れていたみたいで、非常に面白いですね。
アメリカのコールセンターが浮き彫りにした、日本人の武器
榊原:私は以前、多様性を語る上で、大変興味深い例を目にしました。
1999年にアメリカで、当時としては先進的なコールセンターシステムを導入している、超大手の小売企業を見学した時のことです。コールセンターの規模は4〜500席程で、担当言語ごとにオペレーターのブースが区切られていました。
アメリカには英語が話せない人も多く、コールセンターには、英語以外の言語の電話が山ほどかかってきます。そんな時には、過去の電話番号データをもとに、各言語担当のブースに回すといったシステムが確立していました。
しかし、日本で運用しようとすると、多民族なアメリカの最小セグメントが言語の違いなのに対して、日本はみんな日本人。極めて同質性の高いグループのため、言語の違い以上のセグメントの細分化が必要だったんです。
我々は当然のように「こんな日本人やあんな日本人もいるよね」と、多民族な国より細かいクラスタリングを行っています。マーケティングリテラシーの観点からすると、日本人の細かい分類、分析力は、これから武器になってくると思います。
我々の経験から得た強みや特性とは、極めて同質に見えるものの中から、わずかな違いを見出し、分類することができるということ。自動車業界で日本人が頭角を現した原因の一つは、他国がやりきったと思った先に、さらなる可能性を見ることができたからかもしれません。
Netflixが実践する、ペルソナ不在時代のマーケティング
大前:映像配信事業大手のNetflixは、マーケティングの際に顧客ユーザーのデモグラフィックは調査しないそうです。それよりも、「この映像を視聴した人は、他に何を視聴するか」といったユーザー行動を重視しています。それによって、別々の属性のはずのおばあちゃんと女子高生とが、実はよく似た嗜好だとわかったりする。
榊原:双子分析とも言いますね。思いがけない相関や類似が見つかったりする手法です。昔のペルソナアプローチだと説明がつかない新属性、新しいセグメントですよね。
大前:そうです。
榊原:ペルソナアプローチだと説明がつかないことは、検索ビックデータにもあります。
例えば、ワンピースと検索をする人は、どんなペルソナでしょう。アニメのワンピースを検索した小学5年生の男子も、ワンピースの洋服を検索した若い女性もいる。
言葉だけでは見えない属性よりも、ワード検索した後、彼らがどのサイトで長い時を過ごすかが重要であって、検索した人物のペルソナはその後なんです。ペルソナありきのマーケティングはもう終わりなんでしょう。
大前:そう思います。新サービスや新商品開発に、まずはペルソナを特定する時代ではないのかもしれません。
榊原:ファクトデータから属性を掴み、その属性からさらに詳細に傾向を分析できる現代において、どこをペルソナと呼べばいいんでしょう。ペルソナがまるで役に立たないとは思いませんが、考慮する順位が低くなってきてる実感はありますね。
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